最高裁判所大法廷 昭和27年(あ)4637号 判決 1955年12月21日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
検察官の上告趣意第一点について。
裁判官小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎の意見は、昭和二五年政令三二五号「占領目的阻害行為処罰令」は、平和条約発効と同時に当然失効し、その後に右政令の効力を維持することは、憲法上許されないから本件政令違反の点については犯罪後の法令により刑が廃止された場合にあたるとするものであること、昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡大法廷判決記載の小谷、島、藤田、谷村四裁判官の意見のとおりであり、又裁判官栗山茂、同岩松三郎、同河村又介、同小林俊三の意見は、右政令三二五号は、平和条約発効後においては、本件に適用されている昭和二五年六月二六日附及び同年七月一八日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官の書簡による指令及び昭和二〇年九月一〇日附連合国最高司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評及び風説」を「論議すること」を禁止する部分は憲法二一条に違反するから、右指令を適用するかぎりにおいて、平和条約発効と共に失効し、従って、本件政令違反の点は犯罪後の法令により刑の廃止があった場合にあたるとすること、前記昭和二七年(あ)第二八六八号の大法廷判決記載の栗山、河村、小林各裁判官の意見及び昭和二七年(あ)第二〇一一号同三〇年四月二七日言渡大法廷判決記載の栗山、岩松、河村、小林各裁判官の意見のとおりである。よって以上八裁判官の意見によれば、本件政令違反の点は犯罪後に刑が廃止されたときにあたるものとして被告人等に免訴を言渡した原判決は結局正当であって、論旨は理由がない。
同第二点について。
所論は、原判決は高等裁判所の判例に相反する判断をしたというのであるが、所論引用の各判例はいずれもその後前記各大法廷判決によって変更されているので、所論は刑訴四一〇条二項の趣旨に従い原判決を維持するを相当と認める。
被告人等の弁護人杉之原舜一の上告趣意は、違憲をいうけれどもその実質は、刑罰法令の解釈を争うに過ぎないもので刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
被告人等三名の上告趣意中その昭和二五年政令三二五号違反の点に関するものは、原判決により右政令違反の点について免訴の言渡を受けながらこれに対し、更に無罪を主張して上告の申立をするものであって、かかる上告の許されないことは昭和二八年(あ)第四九三三号同二九年一一月一〇日言渡大法廷判決(集八巻一一号一八一六頁参照)の示すとおりである。次に住居侵入の点に関するものは、単なる刑罰法令の解釈を争うものにすぎず刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、刑訴四一四条、三九六条により主文のとおり判決する。
昭和二五年政令三二五号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見は、次のとおりである。
平和条約発効前に犯した昭和二五年政令三二五号違反の罪に対する刑罰は平和条約発効後といえども、廃止されたものといえないことは前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決記載の意見のとおりである。
なお、右政令違反の点に対する各裁判官の補足意見は前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決に記載乃至引用したとおりである。
免訴の判決に対しては被告人等から上告することを許さないとの点に対する裁判官斎藤悠輔の補足意見は前記昭和二八年(あ)第四九三三号の大法廷判決記載の同裁判官の意見のとおりである。
裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。
(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)